十人十福

Vol.07

生活に困窮している人が人生に希望を感じられる未来を、共に。
学生時代から続くNPO法人での支援活動。

松本 浩美さん

認定NPO法人Homedoor

2014年卒業社会起業学科

大阪市内の中高一貫校でボランティア部に所属し、その経験から福祉の分野でより多くの人に関わる仕事がしたいと社会起業学科に進学。学業の傍ら、大学1年生から設立間もない認定NPO法人Homedoorでホームレス状態の人の支援活動に従事し、卒業後も継続。学生時代に培った人のつながりを生かしつつ、現在は事務局長兼理事として活躍している。

#仕事#NPO#起業

自主性を尊重し、NPOの活動を応援してくれたゼミ。

中学・高校とボランティア部だった経験から、将来は福祉に携わる仕事がしたいと漠然と考えていました。大学を選ぶに当たり、最初は社会福祉士(国家資格)を取ろうかと思ったのですが、関西学院大学の学校案内で「社会起業学科」という見慣れない文字を見つけ、ここで学べばより大きなインパクトを社会にもたらせるのではないかと入学しました。一方で、大学1年生の終わり頃、中高時代のボランティア部の1年先輩がホームレス状態の人を支援するHomedoorを立ち上げたのを機に、「手伝ってほしい」と声をかけられスタッフとして参加、授業、Homedoorの活動、アルバイトと予定がびっしりの大学生活を送りました。当時のゼミの川村暁雄先生は「人権政策論」の授業を担当し、人権教育研究室の室長も務めるなど人権を専門とされ、私がやりたいことに一番近く、また学生の自主性を尊重してくれる方でした。1、2年生の時にある程度単位を取ったので、3、4年生は主にHomedoorというフィールドでの活動に多くの時間を使い、授業への出席やレポートなどを通じて活動のバックアップをしていただきました。

今の自分を構成する要素に、大学とのつながりを感じる。

授業ではNPO関係者や実践家の方の話を聞く機会が多く、とても勉強になりました。印象的だったのが、社会起業学科の合宿での社会起業家・田辺大さんの講演です。「裸の男とリーダーシップ」という動画から、一人で踊っていると周囲は怪訝な顔をするけれど、第2の人物が加われば人がどんどん集まり始める、つまり2番目の人が重要だと教わりました。私は起業する人を支える“右腕”的なポジションに就きたいという気持ちが強かったので、「そんな見方もあるんだ」と新鮮でうれしかったです。この時の縁もあって、田辺さんはHomedoorの熱烈な応援者になってくださいました。また当時、人間福祉学部は文部科学省の支援を受け、学生がやりたいことに挑戦するプログラムを展開していました。私はいくつか講演会を企画し、その一つ、日本の貧困問題を学ぶ講演会で講師をされた白波瀬達也先生(現在は社会起業学科教授)とは現在、Homedoorの活動の意義と課題を学術的な視点から明らかにする調査を一緒に進めています。
同級生には家族に障害がある人、児童養護施設で育った人など、社会課題がとても身近だったり自身の中にテーマをしっかり持っていたりする人たちが多くいて、さまざまな刺激や影響を受けました。今も寄付をはじめ、報告書やホームページの制作、スタッフやインターンシップなど、多くの同級生や後輩が多様な形でHomedoorに関わってくれ、現在の私を構成するさまざまな要素に大学との関係性を感じることができます。

田辺大さん(写真右)と

誰もが簡単にホームレス状態になるような社会は嫌だ。

Homedoorは誰もが何度でもやり直せる社会を目指し、生活に困窮する方の生活相談に応じ、宿泊の場を提供し、仕事や居宅の確保を通じて再出発を後押ししています。ホームレス問題を意識したのは中学1年生の6月、ボランティア部での初めての活動で炊き出しをした時です。おにぎり1、2個のために年配の男性たちが2時間以上も並んでいる状況に驚き、「誰でも簡単にホームレス状態になってしまうような社会は嫌だ」と強く思いました。また、自分自身が学生時代に奨学金を借りた経験から、生まれ育った環境でスタートラインが違っても、ある程度のラインまでは本人の努力とは関係なく補填される社会であってほしいと強く思うようになりました。その人の可能性が一番いい形で開花できるような土台づくりをしたいという気持ちが芽生えていきました。
事業が失敗してもやり直せばいいと思い、就職活動は一切しませんでした。ただ一般企業と違ってHomedoorには上司がおらず、書類の作成も契約を交わすのも全て“Google先生”に頼るしかありませんでした(笑)。ホームレス状態の人への対応も事務も経理もPR活動も何でもやったので、どんな仕事も抵抗なく向き合える力を培えました。スタッフが増え事務局長となった今でも、ホームレス問題について講演したり、仕事や物資を提供してくださる企業さんと打ち合わせをしたり、助成金申請や経理作業をしたり、合間にはスタッフの相談に乗ったり。路上で暮らす方に情報や食事を届ける夜回りも年16回しています。

望むタイミングで、望む選択をできることが大事。

夜回りを始めた2013年、ご親族の手術費用を借金したことから路上生活者になった方と出会いました。野宿生活を続けていましたが、結局2021年に体調を崩したことをきっかけに家を借りる決断をされました。年金があっても路上で暮らしたのは、借金をある程度返し終えたい、自分の中での目標を達成したいという気持ちからだったと思います。その人にとっての変化のタイミングがあるのです。「こうした方が楽だろう」と、こちらの物差しで測るのではなく、ご本人が望むタイミングで、ご本人が望む選択をすることが大事なんだと8年をかけて教わりました。
だからこそ、一人一人の方が自分の望む選択肢を得られた時はもちろん、それが集合体となって社会に何らかの変化をもたらすことができたと感じた時は、この仕事をしていて本当によかったと思えます。たとえば最近では、携帯利用料金の滞納を生活困窮のアラートの可能性と捉え、滞納者にはプッシュ通知で内閣官房の孤独・孤立対策ウェブサイトを周知する仕組みを同機関と連携してつくりました。新しい支援の形ができたことはとても大きいと思います。

「夜回り」の様子

公的支援が及ばない、制度の狭間にいる人にこそサポートを。

ホームレス状態の人の支援から始まった活動ですが、続けるうちに若者や女性、外国籍の人、さらに一人ではなくカップルや親子、家族など相談者の属性が広がってきました。そこで2023年、基本的に長期の利用者を対象とした「アンドベース」という新たなシェルターをつくりました。ここを安定的に運営するのが目下の課題です。私たちNPOは小回りが利いて瞬時に動けるのが強みのひとつです。さまざまな制度の狭間にいるがゆえに、制度につながることができない人たちをサポートするのがこの施設の目的です。公的支援では及ばないところを民間の力でどう解決できるか、ひいては公的な支援にどう組み込んでもらえるかをこれからも考えていきたいと思います。
アンドベースの取り組みを成功させることが、私たちが目指す、誰もが何度でもやり直せる社会に一歩近づくことになると受け止めています。生活困窮状態にいる人たちが社会的な不利をものともせずに生きていける、自分の人生に希望を感じられる、そんな未来を一緒に描けたらうれしいですね。ホームレス問題を自分ごととして捉え、ご寄付やボランティアなどのアクションが自然にできるような仕組みづくりも合わせて考えていきたいと思っています。

アンドベースの一部屋

Movie

松本さんが登場する社会起業学科紹介映像