十人十福

Vol.06

入学前は想像していなかった公務員福祉職の道へ。
一人一人が”らしく”生きられる社会づくりに貢献したい。

温品 孝紀さん

社会福祉学科

大阪府立桜塚高校卒業。兄が通う関西学院大学を身近に感じて志望校を一本に絞り、人を支える福祉分野に関心を持ち人間福祉学部社会福祉学科へ進学。卒業後は地方公務員の福祉職に就職予定。関西学院広報室が管轄する学生広報団体にも参加し、西宮上ケ原キャンパスの魅力を発信している。

#社会福祉#ゼミ#資格

社会福祉は身近にあるもの、自分たちの生活から切り離せない分野。

過去にはチームスポーツを経験してきましたが、レギュラーで試合に出ることができずにいました。その一方で、裏方仕事をしたり、選手の相談役を務めたりする中で、人を支えるとはどういう学問分野になるのか興味が湧き、人間福祉学部の受験を選択肢に入れました。また、自分自身が「社会福祉」に対して漠然とネガティブなイメージを抱いており、偏見を持っているように感じていたので、実際を見てみたいという気持ちもありました。
4年間学んだ自分なりの結論は、社会福祉はとても身近にあるものだということです。振り返ると、小・中学校時代のクラスには一人親家庭の子ども、兄弟が多い子、一歩地域に出ればお年寄りや障害のある方がいました。また私たちが使っている健康保険証も社会福祉の1つです。入学するまではあまり意識していませんでしたが、地域自体が社会福祉であり、社会福祉は自分たちの生活とは切っても切り離せない分野だと実感しました。

“子どもが安全ではない環境”そのものが虐待だと気付く。

私にとって大きな転機となったのは、3年生の夏の「ソーシャルワーク実習」です。現在の社会福祉学科では8領域(高齢、医療、公的扶助など)の社会福祉の現場へ実習に行くことができます。私は児童福祉を専門的に学びたいと思い、吹田市の児童養護施設で11日間、堺市の児童相談所で15日間、生きた社会福祉、座学では学べない社会福祉を目の当たりにしたことで考え方がすごく変わりました。
児童養護施設では起床時の声掛けから登校の見送り、宿題の見守り、寝かしつけまで、生活全般に関わりました。日常生活に溶け込み、加えて親でもなく、学校の先生でもない立場で「衣食住」を支える一方で、対話を通して子どもを知り、子どもがありのままの感情を出せるようにする「心のケア」をする難しさを感じました。生活の場をともにする中で一日たりとも同じ日はなく、座学では「関係構築」や「信頼」など学んでいましたが、実践を通して言葉以上に簡単なものではないことを感じました。最初は、様々な背景を持った子どもたちに対して、細心の注意を払わなければいけないという気持ちが強すぎて逆に警戒させてしまうことがありましたが、時間がたつにつれて自分が経験してきた生活とあまり変わらないことに気付き、肩の力を抜いて接するようになりました。
児童相談所では子ども虐待の相談の場、他機関との連携の場などに同席しました。報道やメディアの影響で「虐待の原因は親にある」と思っていましたが、地域にもあると考えています。具体的には児童相談所などの専門機関、自治体、学校、インフォーマルな近隣の付き合いなどを含め、子どもが安全ではない地域社会の環境そのものが虐待なのだと気付きました。
この経験を経て、入学前は考えてもいなかった社会福祉士の国家資格取得を目指すようになりました。

その人らしい生き方という“一枚の絵”を共同作業で描く。

私が考える社会福祉とは、クライエント(援助対象者)の生きざまや価値観と、私たちが「当たり前」と思っていることや価値観をすり合わせながら、クライエントが目指す自分らしい生き方を描いていくものだと思っています。「支援する・される」の関係を越えて一枚の絵を制作していく共同作業であり、その絵はクライエント一人一人違っていて普遍化できないし、何が正解かの答えはありません。単に支援方法や手段を提示するに留まらず、その人らしさをイメージしながら接することが求められると思っています。そういう意味では「アート」のように私は捉えています。
卒業後は、地方公務員の福祉職に就く予定です。当初は一般企業への就職を視野に入れていましたが、実習中に、社会福祉がもたらす社会への貢献度の高さを感じたことがその仕事を志したきっかけです。私たちの暮らしと社会福祉は密接なものです。課題を抱えていた人が生活しやすくなったと感じた時に、地域や社会と繋がり、できることが増える、活性化していくなど良い循環が起こるかもしれません。小さなことかもしれませんが、そのような連鎖が複数集まれば、地域や社会は良い方向に動いていくのではないかと考えています。
もう一つ学びの中で感じたのが、潜在化していることが多いことです。例えば子ども虐待の背景には、生活保護受給家庭である、親が障害者手帳を持っていて、充分に子どもに接する能力が乏しいなど複合的な課題が潜んでいて、それらを一つひとつ紐解き、他機関を巻き込みながら、その人らしい生活に近づけていくことができるのは行政ならではの業務だと思っています。

公務員試験に向けては3年生の11月から3月末まで、大学が提供する公務員講座(エクステンションプログラム)を受けました。実習の事後指導が4、5限目にあり、その後、21時30分ごろまで大学で講座を受けていました。4年生の5月、6月ごろから地方公共団体の受験が始まり、最終的に内定を頂いたのは9月でした。また、福祉の専門職採用のため資格を所持していることが採用の条件でした。そのため、4年生の10月ごろから社会福祉士の国家試験のために1日6時間から7時間は机に向かいました。社会福祉士の国家試験は19科目あり、バランスが難しかったですが、実習で体験したことや大学での演習授業などを思い出しながら勉強に役立てていました。

ラベルで決めつける世の中から一人ひとりの意見や希望を叶えられる世の中へ。

所属する川島恵美教授のゼミの研究テーマは「対人援助における人間関係とコミュニケーション」です。福祉の世界ではクライエントとの信頼関係を築くための重要な要素であり、一般社会でも必要な会話力やマナーの向上につながるものとして、福祉の道に進むか否かにかかわらず自分のためになるテーマだと思って選びました。
川島教授からよく言われるのは、縦のつながりを大切にしなさいということ。自分でも先輩後輩を問わず縦のつながりは大事にしているところです。私が公務員として現場に出て行き詰まった際に、他の福祉現場で働く先輩や福祉とは関係のない民間企業で働く後輩からヒントを与えてくれるかもしれないし、逆に私が力になれる場面も考えられます。1年生の授業「ソーシャルワーク実習入門」のサポートをするラーニング・アシスタントを引き受けたのも、後輩たちに自分の経験を一つでも伝えられたらいいなとの想いからでした。
将来は、同じ学科で学んだ同じDNAを持つ人たち、活躍のフィールドが違う人たちとの縦の繋がりを大切にしながら、生きづらさを抱えている人たちにアプローチしたいという想いがあります。世の中はイメージが先行し、便利にラベルを用いていると感じていて、本人の意見や希望が無視されている風潮があると思っています。例えば、「障害者の●●さん」というラベルの下で意思決定ができないと決めつけられていたり、「認知症高齢者だから判断能力が低下している」などの偏見が少なからずあると感じています。そうではなく、ひとりの「●●さん」の意見や希望がかなえられる世の中へと、社会の構造を変えていきたいです。

“関学愛”を込めて、SNSで魅力を発信中。

関西学院大学広報室直属の学生団体「これが関学」や、オープンキャンパスの運営に携わる「KG CLUB」に入りました。美しい校舎はもちろん、「AI活用入門」や「『関学』学」、「キャリアゼミ」といった自分が受けた関学ならではの授業の紹介などを通じて、関学に憧れを持つ人が増えたらいいなと想いながら活動をしてきました。関学の良さを改めて知る機会にもなりましたし、これを見て関学を目指す人が一人でも増えると嬉しいなと思います。