Vol.09
その人らしく人生を
楽しめるよう
一緒に考えていける
社会福祉士を目指したい。
金 鍾珉さん
社会福祉学科
韓国大田広域市出身の留学生。兵役中に社会福祉の道に進もうと決意し、日本に興味があったこと、スクールモットー“Mastery for Service”に福祉に通ずる精神を感じたことから関西学院大学を受験。合格を機に地元の大学を中退、社会福祉学科に進学した。社会福祉士の資格取得を目指す傍ら、LA(Learning Assistant)等の活動にも積極的で、卒業後は日本で働くことを希望している。
在日外国人の労働問題を「日本語能力」から探る。
コロナ禍で入国できず、韓国でオンライン授業を受けていた1年生の時に「基礎演習」や「哲学と歴史」の授業などで学びの多かった李善惠(リ ソンヘ)先生のゼミを選びました。いつも笑顔ですごくパワーを感じる先生で、「社会福祉の歴史と思想」「キリスト教社会福祉」などを研究されています。今は卒業論文のテーマを絞っていく段階で、もともと興味があった在日外国人の労働環境問題を取り上げようと思っています。授業で日本の外国人技能実習生制度を扱い技能実習生の待遇が悪いと感じたこと、私自身も外国人であり将来は日本で働きたいと思っていることが理由です。夏休みの課題では、日本で介護職として働く外国人労働者に限定し、論文や本を読んでまとめました。課題と感じたのは、外国人労働者がどのような制度や立場で来日したかにかかわらず、介護現場で求められる日本語能力が低く、日本語能力試験で言うと小学1、2年生レベルだということです。これでは日本で生活するには難しく、どこに悩みを相談したらいいのか分からないし、情報収集さえもできないんじゃないかと思いました。彼らの待遇の悪さには低い日本語能力が関係している、日本語の能力を高める必要があるのではないかと考え、卒論ではインタビューなどを交えてまとめたいと思っています。
子どもたちと遊びに熱中し言葉の不安もなくなった。
社会福祉士になるための「ソーシャルワーク実習」として、A実習は宝塚市の特別養護老人ホームへ5日間、B実習は大阪市内の母子生活支援施設へ28日間行き、すごく楽しく終えることができました。コミュニケーションも問題なくできたので、言葉に対する不安がなくなり、日本で就職しても大丈夫だと自信にもなりました。A実習は利用者さんと一対一で話すことがメインで、人生の先輩として結婚や仕事について話してくれる社交的な人もいました。B実習の場合は、もともとボランティア活動で子どもと関わった経験があり、きっかけづくりとしてデイキャンプもあったのですぐに仲良くなれました。一方、お母さんたちと関わる機会は少なかったのですが、顔を覚えてくださった方が「今朝、コンビニに行ってましたよね」と声をかけてくれることもありました。実習中は日誌を書かなくてはいけないのですが、子どもたちと遊ぶことに熱中しすぎて学んだことを思い出すのにちょっと時間がかかりました(笑)。それがちょっと大変でした。私自身は韓国人だからと区別されることもなく、「韓国語を話してみて」と子どもたちの人気者になりました。「〇〇は、どういう意味でしょう」と遊ぶ手段にもなり、逆にメリットになったと思います。
救ってあげるという考えでは人を理解できない。
実習現場はどちらもすごく忙しかったですが、利用者さんや子どもたちが笑顔になるのをたくさん見ることができて、福祉の現場で働くことの魅力ややりがいを感じることができました。A実習での送迎支援で入所者さんを自宅まで送っていった時に、ご本人は喜び、迎える家族も笑っていて、「こういう笑顔をもっと見たいな」と改めて思いました。どちらの実習でも入所者さんに対して、かわいそうという気持ちは持たないようにしました。支援計画書を作成するために入所者さんのケース記録を見て背景を知る機会もありましたが、心がけたのはその情報だけで「偏見を持たないこと」。私と背景が違うだけで、うれしいことがあれば喜ぶし、つらいことがあれば悲しむ同じ人間です。だからこそ、それぞれの背景はあえて想像しすぎないようにして、その人がもっと笑顔になれるよう、人生を楽しめるように関係性を築いていきたいと思いました。そして子どもたちには、いい思い出をつくりながら大人になり自分の人生をちゃんと歩んでいってほしいと願いながら接しました。救ってあげるという上から目線の気持ちでは、その人を本当に理解することはできないと考えています。
日本に適応するため子ども食堂で得意の料理を。
入国したばかりの2年生の時には、日本語で話すのも書くのも簡単な単語さえ思い出せず、いつもスマホで辞書検索しながらという状態でした。日本の社会に早く適応するためにも日本語をたくさん使う環境に入っていこうと考え、来日してすぐ、大学生が主体となって子どもたちへのボランティア活動を展開する「ブレーンヒューマニティー」に参加しました。私は料理が得意なこともあり、尼崎市にある子ども食堂で1カ月に1、2回、キッチンスタッフとして調理を担当し、子どもたちがおいしく食べる姿を見て幸せな気持ちを感じることができました。2年生の秋学期には、授業の運営を補佐するLA(ラーニングアシスタント)にもチャレンジし、今も続けています。後輩たちはさまざまなワークにおいて、先輩LAと関わり、先輩の姿を通して自分の未来を考えます。LAは後輩を導く役割を果たしていると思っており、私が1年生の時にどう思ったのか、どんな不安があったのかを思い出し、どうやって乗り越えてきたかを伝えるように心がけています。私は最初から社会福祉士を目指していましたが、迷っている人も多いはずです。そういう人には、いつからでも資格取得を目指すことができるように、受験に必要な履修科目は卒業単位として取っておくことをアドバイスしています。
卒業後は日本で社会福祉士として働きたい。
社会福祉士の資格を取り、卒業後は社会福祉士として関西地域で働きたいと考えています。もともと子どもが好きで、「ソーシャルワーク実習」でも子どもと関わることが楽しかったので、母子生活支援施設や児童福祉施設などで働くことを希望しています。全く領域の異なる2つの実習に行けたことで、自分がどのような領域に向いているのかが分かりました。韓国に帰るとしても、それはかなり遠い未来の話になると思います。韓国にも社会福祉士の仕事はありますが、韓国で社会福祉士に対する国家試験が行われたのは2003年からですので、そんなに長くはありません。また、韓国の社会福祉に関する最初の法律や政策は、日本の制度を参考したともいわれています。
そのため、日本において学ぶべきことはたくさんあります。日本で社会福祉士として働き、帰国後にはその経験を生かして仕事をすることもできると思っています。中学生の時に保健室の先生になりたいと思ったことから医療や福祉に関心を持ち、韓国では医療系の大学に進みました。入隊してこれから人生を考えた時にもっと社会福祉の分野を学びたいと思い、スクールモットー“Mastery for Service”に社会福祉の精神そのものを感じて関学にやって来ました。ソーシャルワーク実習やボランティア等の経験からたくさんの方の笑顔を見て、少しずつ夢に近づいているのかなと感じています。