Vol.16
罪を犯した人に対して、
社会福祉の立場から
課題を探り支援を考える。
大迫 めぐみさん
社会福祉学科
川西市出身。高校時代にテレビ番組などを見て、家庭環境により子供たちの未来に格差が生じる現状に心を痛め、福祉について学ぼうと決意。社会福祉士の受験資格を取得できる人間福祉学部社会福祉学科に進む。4年間の授業や、社会福祉士と精神保健福祉士を目指すための2度の実習を通して司法福祉分野への関心が高まり、大学院に進学して学びを深める予定。
救護施設での実習をきっかけに司法福祉分野に興味。
福祉に興味を持ったきっかけは、高校生の頃、家庭環境による子供たちの格差が年齢とともに広がっていく現実に問題意識を抱いたことでした。彼らに寄り添える教員になろうと考えていたところ、生活全般で支援できるのが社会福祉の分野だと知り、社会福祉士を目指して社会福祉学科に進みました。当初は子供にだけ目が向いていたのですが、大学で学ぶうちに、その子供たちが大人になった時のことを想像するようになりました。環境が原因で道を踏み外し、福祉の支援が必要であるにもかかわらず届いていないために罪を犯してしまう人が結構な割合でいることを授業や文献で知り、徐々に司法福祉分野への関心が高まっていきました。司法福祉とは、犯罪行為をした人やその家族、被害者など犯罪の問題に関わる人への福祉支援、中でも罪を犯した人への支援をいいます。
最終的に司法福祉に絞る決め手となったのは、3年生のソーシャルワーク実習で救護施設に行ったことでした。犯罪の前科がある入居者さんもおり、施設にいる間は大丈夫でも、地域に出て一人暮らしを始めるとまた犯罪行為をする、その繰り返しという方もいました。社会や地域においてもう少し支援の制度や体制が整っていれば、と肌で感じました。司法福祉分野の支援対象者には精神障害がある人もいます。精神保健福祉士の資格を取る必要があると考えて、4年生では精神保健福祉援助演習を受講することにしました。

支援する側の自分を知ることも大切だと気づいた。
4年生の精神保健福祉援助演習は深い学習の場となりました。私を含む3人の学生に対し先生方も3人で、精神保健福祉援助実習の事前準備をしたり、実習後には振り返りを発表してフィードバックを受けたりします。また、授業では自分の内面を知る自己覚知を大事にしており、自己覚知をテーマに一人一人の学生に関して「こういうところがあるよね」とみんなで話し合いました。例えば、私自身はよくしゃべるほうだと思っていたのですが、「おしゃべりに見えて、自分のことを話しているというよりも相手の話を聞いて掘り下げ広げている感じ」と言われましたし、自分では意識していなかったものの「ため込みやすいタイプだ」と気づかされました。私はそれまで、福祉イコール支援される側の人だけに関心を向けるという認識でしたが、支援する側の価値観や考え方が支援のスタイルに直接関わるため、自分自身に関心を向けることも大切だと学べました。ため込むタイプならば、あらかじめ周囲の人に「ため込んでいるように見えたら指摘してください」とお願いするなど対処が可能になります。ソーシャルワーカーの仕事をずっと続けていく上でも必要なことだと理解することができました。
大学4年間を振り返ると、目に見えないものを見ようとする力が少しは身に付いたかなと感じています。デイケアでの実習で初対面の利用者さんに警戒された時、私はそれを人見知りだからと受け止めましたが、後から職員さんに、統合失調症による妄想から初めて会う人を敵とみなしてしまうのだと聞きました。統合失調症をはじめとした精神疾患は目に見えないため、特にこの力が大切になります。生まれ育った環境の中で培った視点でしか見ることができておらず、自分の当たり前が崩れるのを経験しました。見えないものを意識的に見ることを心がけるようになったのは実習での成果の一つです。

保護司への聞き取りで保護観察対象者の課題を探る。
ゼミの担当は、家庭福祉や社会調査、データサイエンスを研究分野とする李政元教授です。2年生の時に初めて李教授の授業を受け、内容はもちろん、合間に話される考え方にも共感しました。「教員はただ教えればいいのではなく、社会人に必要な力を育むために責任を持って教育・指導すべきだと思っている」と教育面の姿勢についてのお考えを聞き、「この先生の下で学びたい」と思いました。国家資格の受験や大学院への進学などを含めたスケジュール面も考慮してくださり、また卒業論文の作成に必要なアプリの使い方なども教えていただきました。
卒論のテーマは「保護観察対象者が直面する困難」です。犯罪や非行をした人が保護観察所の指導の下、社会の中で更生を図る制度が保護観察で、保護観察対象者の立ち直りをボランティアとして地域で直接支援する保護司3人にインタビューをし、どういう課題があるのか、課題に隠れている社会的背景は何かを探りました。もともと犯罪行為をした人について研究したいと思っていて、先行研究を読んだり、李先生から研究方法を教えていただいたりした中から、テーマや手法を決めました。聞き取りから見えてきたのは、仕事をしたり学校に行ったり、入浴したりといった基本的な生活時間以外の余暇の過ごし方がうまくいっていないことです。例えば、友達がいない、お金がないといった理由で何もすることがなく、寂しさなどから再び犯罪行為に走るというケースもありました。余暇を一緒に過ごせるような人を紹介するなど、余暇支援を課題の一つに挙げました。

クライエントに伴走し共に考える支援者になりたい。
卒業後は大学院に進み、卒業論文から発展させて、非行・犯罪行為を行った人への余暇支援を中心に研究していくつもりです。余暇支援は現段階ではあまり活発に行われていないので、まずは現状を把握するところから始め、そこから課題を抽出し、支援策やそれを成功させるためにはどういうことが必要かを探っていきます。犯罪行為は絶対にいけないことだというのは大前提です。その上で、犯罪行為に至るには背景や環境などさまざまな要因が絡まっており、単に再犯防止という観点からではなく、確固とした社会福祉の立場からの支援を考えていこうと思っています。
将来的にはソーシャルワーカーとして現場に立つことを目指しています。司法福祉分野の活躍の場としては保護観察所や刑務所、地域定着支援センターなどがあり、私はクライエントとじっくりと関係性を築き一緒に歩んでいきたいので、更生保護施設がいいなと思っています。大学に入るまでは、福祉とは支援が必要な人のためにするものだと理解していましたが、授業や実習を通じて、「ために」ではなく、「ともに」「一緒に」歩んでいくものなのだと理解するようになりました。「ために」という考え方では、クライエントが望んでいないことをしてしまったり、先回りしてしまうことでクライエントが成長する機会を奪うことになったりするかもしれません。伴走者として、クライエントと一緒に歩み、共に考えていけるようなソーシャルワーカーになりたいです。

周囲からの「なぜ」の積み重ねが大学院につながった。
もしも関西学院大学人間福祉学部に入っていなかったら、福祉に関する研究を深めようと考えず、卒業後はすぐに現場に出ていたと思います。演習などの授業はもちろん、実習指導の先生や実習先の指導者の方にたくさんの「なぜ」を投げかけていただく機会がたくさんあり、「なぜなんだろう」と原因を探ったり、そこから「どうしたらいいんだろう」と考えをつなげたりすることの積み重ねの中で、大学院進学を希望するようになりました。この「なぜ」の問いかけは、人間福祉学部ならではの魅力です。また、授業では先生方の個人的な思いや考え方に触れられる瞬間も多く、その一つひとつが気づきになりました。
学生と先生方とのつながりが強いのも人間福祉学部のいいところだと感じます。精神保健福祉援助実習では、実習指導担当の先生から丁寧にサポートいただけます。実習前には、準備に追われる一方で、大学院に進むための研究計画書の作成もしなくてはならず、精神的に余裕がなくなって泣いてしまったことがありました。先生は、そんな私に寄り添い、思いを聞いてくださった上でアドバイスしてくださいました。また、実践教育支援室のサポートも手厚く、進路や国家資格の相談にも乗ってくださいます。いつ行っても温かい言葉をかけてくださり、安心感を得られます。
今の私があるのは、これまでに出会い、サポートいただいた周りの方々のおかげだと心から思っています。
