十人十福

Vol.13

現地に足を運ぶことが第一。
JICA海外協力隊の一員となり
アフリカの稲作振興を。

笠原 幹生さん

社会起業学科

神戸市北区出身。幼少の頃に見たテレビ番組の影響でJICA海外協力隊に憧れ、国際協力活動をしたいと思うように。そのためには実践知を高めることが重要と、海外へ出て行くチャンスが多い人間福祉学部社会起業学科に進学した。3年時の履修科目によるルワンダでのフィールドスタディが大きな転機となり、1年間休学して農業に従事する傍ら、JICAの体験プログラムでガーナへ。卒業後はJICA海外協力隊での活動を目指す。

#社会起業#ゼミ#課外活動

ルワンダの人と一緒に道路修繕作業に汗を流す。

3年生で履修した「人間福祉海外フィールドスタディ」は、人間福祉学部独自の科目です。事前学習や実習先の決定、アポ取りなどを行った後、海外で社会的課題などに取り組む組織や団体で4週間程度実習します。実習先にはルワンダの2団体を選びました。メインは、開発途上国の農道等を現地の人と共に整備しながら維持管理の技術を伝えている京都発のNPO法人「道普請人」です。私は、コンゴとの国境付近で約10日間、整地した後に土のうを並べたり、たたいて強度を上げたりと、ひたすら道路の修繕に汗を流しました。この辺りの山道は雨季には川のように水が流れ、乾くと固い凸凹状態になったまま放置され、子どもが学校に通えない、農作物を市場に売りに行けないといった問題が生じています。改修により、道はきれいになるし、現地の人は習得した技術を仕事につなげることもできます。ケニアでは、道路の修繕の会社を興した事例もあるそうです。もう一つの実習先は、首都キガリで日本人が運営し社会的な問題解決を目指す企業「KISEKI」で、幼稚園の運営支援や貧しい母子のサポートをしています。ルワンダには吹奏楽がないと聞いたので、高校生の妹が所属する吹奏楽部にお願いして演奏動画を送ってもらい、幼稚園で鑑賞の場を持ちました。お礼として、伝統舞踊を踊る子どもたちの動画を届けることで、ルワンダという国を知ってもらう機会にもしました。

さまざまな気付きと出会いで人生の転機になった。

人間福祉海外フィールドスタディを通じて、直接現地を見ることの大切さを痛感しました。渡航以前、「アフリカはなぜ成長しないのか」「支援は依存を招くのでよくないのではないか」といった議論を耳にするたびに、何か違和感を抱く自分がいました。「支援」という言葉にもしっくり来ないものを感じていました。ルワンダに行き、「道普請人」で一緒に汗を流す人と話してみると、わずか15歳で働きながら妹の面倒を見ている人がいます。親に学費を出してもらって大学に通い、学生の身分でルワンダに行く機会を得ることのできる私が、そんな彼らに対して自立支援などと言うのはおこがましいと、はっきり気付きました。何事においても、対等な関係で一緒にやっていくのだという気持ちを持ち続けるという、この先自分が活動していく上での絶対的な指針を得られたのは大きかったです。実践知を高めたいと入学したものの、海外に行くプログラムはハードルが高いと思い込んでいた2年生の時、「授業を受ければ海外で実践する経験ができるらしい」という友達の一言をきっかけに、何の予備知識もないまま軽い気持ちで履修しました。いざ受講してみると、自分のやる気次第で現地で実践を積むことができる素晴らしいプログラムでした。ちょうど就職活動が始まった頃で行くことに迷いもありましたが、さまざまな気付きと出会いがあり、この時の経験が人生の転機になったと受け止めています。

稲作技術を学びつつ自分の軸を貫くしんどさを痛感。

ルワンダではJICA海外協力隊の方々に会う機会もあり、協力隊で活動するという思いが右肩上がりに強くなりました。そのためには何か専門性を持ちたいと「KISEKI」の代表の方に相談し、かつて体験農業のボランティアをして楽しかったことを伝えたところ、「高知県四万十市の農家を紹介するから、米作りの技術を習得したら」と勧められました。有機農法で稲作をし、地域の耕作放棄地の面倒も見ている農家さんで、4年生になる2023年4月から1年間休学して作業に従事しました。シェアハウスで生活しながら、朝9時から遅い日は18時、19時まで、草引きに土木作業にと汗だくになって働きました。自分の軸を貫こうと選んだ道でしたが、周りに同年代の人はおらず、一人でいると「早く就職した方がいいのでは。いや、それは自分のしたいことと違う」と気持ちが大きく揺れる時もありました。でも、この地でも政治から日本の農業を考える市議会議員や、有機栽培の柑橘類の売り方を模索する農家さんなどとの出会いがありました。途中、2024年2月から3月にかけての3週間は、JICA海外協力隊の学生向け体験プログラムの1期生としてガーナにも行き、女性の地位向上に取り組む現地のNPO法人に日常生活で取り組める英語能力向上策を提案しました。1年間の休学は大きな決断でしたが、この選択は間違っていなかったと思います。

現地で顔を突き合わせないと相手の思いは分からない。

ゼミは、グローバル社会や他者研究をテーマとする孫良教授の下で学んでいます。国際協力では、現地の人である他者との関係性の構築や相互理解が不可欠であり、絶対に学ぶべき分野だと思いました。ゼミ生の研究内容はスポーツや音楽などさまざまで、研究の方法や内容について皆でディスカッションしアドバイスし合っています。孫先生には、国際協力の現場では、他人といかにうまくコミュニケーションを取るかが重要で、それには相手から発せられる言葉を全てとせず、しぐさや目線などささいな行動からも隠れた思いを読み取ることが大切だと教わりました。ルワンダの実習先でも、私がやってみたい内容を話すと「いいね、やってほしい」と答えながらも、実はそうは思っていないことが、ちょっと目をそらす、ぴくっと指先が動くなどの反応から感じ取れました。ゼミでの座学と海外での実践の両方から得た結論は、実際に顔を突き合わせてコミュニケーションを取らないと相手が考えていることは分からないということ。とにかく現地に行くことが一番で、以来、私が最も意識していることです。

JICA海外協力隊員として再びアフリカを目指す。

卒業後は、JICA海外協力隊の隊員となって2年間、四万十市での経験を生かしアフリカで稲作栽培に携わりたいと考えています。都市から離れた甘えのない環境にどっぷりと入り込み、現地の人と存分にコミュニケーションを取りながら、双方の思うものを一緒に作り出していきたいと思います。将来的には、JICAの職員もしくは農学系の専門家になることが目標で、どこかのタイミングで専門家に必要な修士の学位取得にも挑戦するつもりです。実務を積みつつ勉強もし、英語力も向上させ、目標に向かって進んでいきたいと思っています。私のように“ザ・普通”だった人間がこういった進路を選ぶことになったのには、入学した時はすでに起業していたり、4年間で2つの学部の学位取得に挑戦したりと意欲的な友人たちと出会ったことも大きかったです。3、4年生になると、さらに起業する、実践を積むといった仲間が増え、彼らと話をする中で、大いに刺激を受け内面的に変わっていけたのではないかと自己分析しています。加えて、人間福祉海外フィールドスタディをはじめとする参加しやすい科目の提供や、私に合う実践活動を紹介してくださる先生方など、学部のバックアップがあったからこそ、いろいろなことに挑戦でききました。このまま突っ走っていきたいです!