十人十福

Vol.07

「視野の広がり」×「実践知」。
商学部との2学部履修で
より多角的な社会課題の解決を。

松中 拓澄さん

社会起業学科 4年

兵庫県立西宮高校出身。国内外の社会問題について学びたいと人間福祉学部社会起業学科に入学。3年生で履修した「社会起業プラクティス演習」「社会起業プラクティス」の授業を経て洋服のリユース活動「想い出Closet」を企画・実践。改善を重ねながら現在も継続している。一方、マルチプル・ディグリー制度を活用し、商学部の課程も履修。2学部の卒業を目指している。

#社会起業#ゼミ#副専攻プログラム

海外と国内、両方の社会問題について学びたい

関学の西宮上ケ原キャンパスの近くで生まれ育ちました。中学2年生の時、「トライやる・ウィーク」で大学職員の仕事を体験するために1週間通い、建物の美しさや学生たちの生き生きとした姿に「素敵な学校だな、ここに入りたいな」と憧れを抱くようになりました。開発途上国の問題に関心があったので、社会起業学科では海外はもちろん、日本国内の社会問題も学べると知り、2020年4月に入学しました。ちょうどコロナ禍が始まった頃で、1、2年生の授業は全てオンラインでした。海外渡航など許されるはずもなく、身動きが取れない中で、関心は次第に国内の社会問題や環境問題にシフトしていきました。母子家庭の子どもたちが通う塾でボランティアとして講師をしたり、中高生の進路相談に乗ったりする活動を始めました。
また、2年生の春から人間福祉学部と並行し、商学部の副専攻プログラムで「マーケティング」の履修をスタートしました。かねてから興味があったのですが、当時、社会起業学科にはマーケティングを専門とする先生がいらっしゃらなかったので、副専攻プログラムの履修を決めました。マーケティングの勉強はとても面白く、特に西本章宏先生の「マーケティングマネジメント」と「関係性マーケティング」の授業では、毎回最初の1時間、マーケティング戦略やプロのマーケター視点を紹介するマーケティングトゥデイという時間があり、担当者がニーズを予測して改善する様を知ることができたのは大変勉強になりました。

マーケティングを学び社会課題の解決を

3年生になった年に、社会起業学科の教授として、マーケティング、消費者行動、ソーシャル・マネジメントを専門とする森藤ちひろ先生が赴任されました。森藤先生は、「社会課題の解決にこそマーケティングは不可欠であり、マーケティングは社会を変える可能性を持っている」と考えておられます。商学部の副専攻プログラムでマーケティングの面白さに目覚めたこともあり、マーケティングを通して社会問題の解決に関わるため、ゼミは迷うことなく森藤ゼミを選択しました。
実際に森藤ゼミでは、奈良県吉野町の令和4年度吉野町協働のまちづくり推進事業交付金に応募し、昨年11月、イベント「絶品マルシェ&スポーツバル」を開催しました。官民協働で創設されたコワーキングスペース&シェアオフィス「YOSHINO GATEWAY」で実施することにより、同施設が産業振興の拠点となるきっかけをつくるのが目的です。コンテンツは、奈良と神戸の食材を集めたマルシェとサッカー日本代表戦のパブリックビューイングで、私はマルシェ担当として店舗への出店交渉などを行いました。
「絶品マルシェ&スポーツバル」以外にも、滋賀県に残るヴォーリズ建築の病院を見学したり、奈良県川上村の森林保全に取り組む人のお話を聞いたりと、森藤先生のつながりで多くの経験をさせていただきました。森藤先生はつながった縁をとても大切にされています。一度の出会いでもその縁を大切にすることで、今後の人生がより豊かになると感じました。私も先生のように、出会えた方との縁を大切にしていきたいと思います。

想い出のある洋服を大切にしてくれる人へ引き継ぐ「想い出Closet」

授業で一番印象に残っているのは、対面形式が復活した3年生の時に履修した「社会起業プラクティス演習」「社会起業プラクティス」です。春学期の「社会起業プラクティス演習」で、関心のある社会課題に対して事業プランを作成し、秋学期の「社会起業プラクティス」では、そのプランを実践します。自分自身で考えたアイデアを実際に形にしていく経験は大きな財産になりました。
私が考えたのは、誰かが大切に着ていた想い出のある洋服を、大切にしてくれる人へ無償で引き渡す「想い出Closet」という活動です。全ての洋服に、持ち主だった人が想い出を書いたメッセージカードをタグのように付けて、イベント会場の阪急西宮ガーデンズ内「無印良品」に展示。想い出に共感した人が、そのまま持って帰ることができるシステムです。芯にあるのは「ものを大切にする」という気持ちです。もともと洋服が好きで、服の大量生産、大量廃棄の問題に危機感を抱いていました。ソーシャルグッドなものとされる古着ですが、山積みされ安価で売られている現状には違和感があり、値段ではなく、どれだけ大切にされていたかで選んでほしいと思い、この活動を計画しました。

仲間と一緒に活動することで人に任せる大切さに気付く

昨年の7月に「想い出Closet」の初回を実施し、「社会起業プラクティス」の履修期間が終わった後も活動を継続。今までに6回行いました。回を重ねるごとに一緒にやりたいという人が増え、現在は私を含めて9人が参加しています。活動を続けていく資金や助言を得るために国の社会起業支援プログラム「ゼロイチ」に挑戦しましたが落選してしまい、どこかで収益を出さないと続けられない状況です。ただ、値段で服を判断するというバイアスはかけたくないので今のまま無償にはこだわりたい。イベントとは別の所で利益を確保する仕組みが必要だと考えています。
活動を通して学んだのは、人に任せることの大切さです。スタッフに頼るのは申し訳ないと思って3回目くらいまでは私一人でほぼ準備をしたのですが、ある時「自分たちもメンバーだからもっと頼って」と言われました。スタッフにもそれぞれ、活動に対する思い入れやメンバーの一員だという自負があったのです。任せないのは信頼していないことにつながると気付き、そこからは役割を分担しました。役割を与えられると人は頑張るし、やり遂げた後の達成感も違います。人に任せる大切さに気付けたのは、これまでの人への接し方を見直す契機となりました。
卒業論文も「『想い出Closet』の社会的意義」をテーマにしました。イベントに関わってくれた人はもちろん、まだ認知していない人にも活動について聞き取りをした上で、実施する意味や社会的な影響を探究したいです。そして、今の方向性でいいかどうかも検証したいと思います。

2学部履修で「視野の広がり」と「実践知」を得ることができた

2年生の春、商学部の副専攻プログラムを履修し始めた段階で、マルチプル・ディグリー制度を活用して2学部の卒業を目指すことにしました。せっかく入学したのだから、自分が納得するまで、できるだけ多くのことを学びたいと思ったのです。2年生以降、1年間に両学部合わせて32単位を取るように努めてきました。平日の夜では終わらない課題やリポートは、週末に大学図書館にこもって仕上げました。振り返ると、2年生の時は丸1日休みの日があまりなかったですね。忙しかったですが、向学心を満足させてくれる授業が多かったので、2学部履修も苦ではありませんでした。人間福祉学部では、日本や世界で起こっている社会問題について幅広く、かつ深く知ることで視野が広がった一方、商学部では、商品やサービスを提供するプロセスや利益を生むノウハウを学ぶことができました。「視野の広がり」と「実践知」を並行して得ることができたと感じています。
2025年3月卒業予定で、その後の進路はまだ決めかねています。自分で洋服をデザインして作り販売するという大きな夢があり、就職して販売の経験を積んでからいずれは事業化したいと考えています。「想い出Closet」の活動も可能な限り続けたいですね。活動や仕事の形は変わっても、芯にある「ものを大切にする」という思いは今後も大切に持ち続けたいと思います。