十人十福

Vol.03

野外教育と芸術の交差点に
未来のキャンプを描く

甲斐 知彦教授

人間科学科

#野外教育#キャンプ

 「自然は芸術を模倣する。だから、自然は数学を模倣する。」

 この言葉は、私の師の言葉です。皆さんはこの言葉を読んで、どう思いますか?

 前半の「自然は芸術を模倣する」はイギリスの作家オスカー・ワイルドの言葉でもあります。ワイルドは、「〈自然〉とはぼくらを産んでくれた大いなる母なのではなく、ぼくらが創ったものだ。それが生命を得て蘇るのは、ぼくらの脳の中でなのだ。ぼくらが見るからこそものがあるのであり、ぼくらの見えるものやその見方は、ぼくらに影響を与えてくれた『芸術』に負っているんだ」1)といったそうです。

 仏師は「仏様を彫っているのではないのです。木の中にはすでに仏様が宿っておられるのです。それをノミや彫刻刀を使って私たちが世に出られるお手伝いをしているのです」2)といいます。ある数学者もつくった定理について同じようにいいます。しかし、師はそうではないと言われていました。その仏師だからこそ、その数学者だからこそ見えるのであって、誰にでも見えるものではないと言われていました。前述のワイルドの言葉は師の話に通ずるところがあります。

 野外教育では、自然は意味あるものとして青少年を自然へ誘います。果たして、青少年にも意味あるものとして見えているのでしょうか?ただ、そこに自然があるだけでこちらが意図するように見えていないかもしれません。「芸術」や「数学」にあたるものを示す必要があるのかもしれません。

 ある時、学生の皆さんと一緒に室生山上公園芸術の森を訪れました。私は、その森の明らかに他とは違う様子を感じ取っていましたが、学生たちはそうは感じ取っていませんでした。そこで、目隠しをして森を歩く活動を体験してもらって、改めて、その森をどう感じるかを尋ねてみました。そうすると今までとは明らかに違ったものとして受け止める姿がそこにはありました。つまり、そこでの別の体験が森の見え方を変えたわけです。

 私は、そんな「人」と「自然」を繋ぐキャンプを描きたいと思っています。現在はその手段として情報端末を使った切り口で取り組んでいます。写真はその取り組みの一例ですが、共同研究を行っている尼崎市立美方高原自然の家で実施したARネイチャーラリーの一場面です。この取り組みでは、自然の中に設置した生き物のイラストをマーカーとして起動する拡張現実の技術を用いたアプリを制作して、そこでの体験を促す役目を持たせています。現場では、デジタルネイティブといわれる世代の体験への入り口として活用していただいています。興味のある方は是非、以下のURLから実際の様子や冊子をご覧ください。

ARネイチャーラリーの様子

参考資料
1) 宮崎かすみ オスカー・ワイルド「犯罪者」にして芸術家 中公新書 2013 東京
2) 中日BIZナビ 松本明慶 佛像彫刻展-慈しみと微笑みの深淵なる世界- 


※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。