Vol.05
スポーツを「使う」という視点
~スポーツを通じたマーケティング~
林 直也教授
社会起業学科
学校の休み時間、グラウンドへ飛び出し、思い切り友達とドッジボールを楽しんだ!
放課後、友達とサッカーに夢中になりすぎ、ついつい宿題が後回しになってしまった!
こんな経験、みなさんにありませんか?
他にも、筋トレで引き締まった身体を目指す大学生、地域のスポーツクラブで汗を流す高齢者、家族でのプロ野球観戦を計画しているお父さん、ボランティアとしてスポーツイベントを支える地域のみなさんなど、スポーツは様々な形で人々の生活の中に浸透しています。
「スポーツの実施状況等に関する世論調査」1)によると、週1日以上運動を実施した回答者の割合は、2016年は42.7%、2021年は56.4%と、コロナ禍にもかかわらず徐々に増えています。
ここで重要なのは、その目的です。
スポーツをすること、見ること、支えること、それ自体に目的があるのでしょうか。そうではありません。それによって得られる便益、効果、価値に目的があるのです。
小学生の時、元気いっぱいドッジボールにいそしんだのは、友達と楽しい時間を過ごしたい、交流したいからだったのでないでしょうか。お父さんが野球観戦を計画しているのは、家族との有意義な時間を過ごしたいから、高齢者がスポーツクラブで汗を流すのは、健康の維持・増進に加え、地域や社会とのつながりを持ちたいからかもしれません。
このように、スポーツは何らかの目的を達成するための手段として、「使われて」いるのです。
この、「使う」という視点が非常に重要です。
健康の維持・増進による労働力の向上、介護費や医療費の削減はもちろん、協調性、統率力、忍耐力、気配りといった、いわゆる非認知スキルの習得2)、メガ・スポーツイベントの開催を契機としたまちづくり、地域への帰属意識向上、地域課題の解決など、スポーツを使うことによる効果は多岐に渡ります。
阪神間や神戸市の有志らで設立されたKOBEジュニアハイスクールクラブ3)は、スポーツを通じて中学生に夢中になれる「居場所」を提供することを目的に活動されています。スポーツを使った素晴らしい取り組みですね。
その効果は大学でも確認されています。私が行った研究4)によると、体育会所属学生と非所属学生の大学への帰属意識や大学満足度は、所属学生の方が有意に高いことが分かっています。体育会所属学生は日々の活動の中で大学を意識する機会が多く、大学を自らの居場所と感じ始めるのでしょう。その中で様々な学び、経験を重ねることで成長していく。それが大学満足度を高める要因になるのだと思います。
また、スポーツを通じて「考える」こともできるでしょう。 例えば、ダイバーシティや多様性について。2019年、日本でラグビー・ワールドカップが開催され、日本代表は世界の強豪国に臆することなく、ベスト8に上り詰めました。「ワンチーム(One Team)」というスローガンのもと、日本人選手だけでなく、多くの外国人選手を起用し、チーム一丸となってプレーしたのです。
自らの個性だけでなく、他者の個性も受容、尊重した上で、適材適所に選手を配置することで組織力を高める。正にダイバーシティのチカラです。サッカーで11人全員がフォワードのチームは満足いく結果が得られるでしょうか。答えは言うまでもありませんね。
このように、スポーツそれ自体を普及・発展させる「スポーツのためのマーケティング」も大切ですが、一見スポーツとは関係がないような問題、概念(環境、食品ロス、多様性、LGBTQ、障害者、子ども、高齢者、虐待、貧困など)について、スポーツを通じて考え、発信していく。私はこのような、「スポーツを通じたマーケティング」の視点を広めていきたいと考えています。
実際に私のゼミでは、スポーツの要素を取り入れた小学校での算数や英語の授業、SDGsについて考える授業、スポーツを通じて小学生が「お仕事」を体験する取り組み、スポーツを通じて地産地消について考えるイベントなどを実践してきました。
今後も、地域貢献したい!課題解決したい!という熱い思いを持った学生たちと一緒にスポーツを使った取り組み、アイディアをたくさん生み出していきたいと思っています。
参考資料
1) スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 2022/8/8
2) 佐々木勝(2021)『経済学者が語るスポーツの力』有斐閣
3) KOBEジュニアハイスクールクラブHP 2022/8/9
4) 林直也(2021)「体育会に所属する大学生の大学への帰属意識に関する研究-コロナ禍における体育会の意義について考える-」『人間福祉学研究』14 (1), 91-103
※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。