十人十福

Vol.17

気分は探偵!
歴史を通して社会福祉の根源を探る旅へ

岡本 周佳助教

社会福祉学科

#ソーシャルワーク#社会福祉史

歴史研究ってカタい?

 私は、社会福祉学の歴史研究という方法で、主に戦後の研究をしています。歴史と聞くと、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。教科書を覚えるのが歴史と考えている場合、研究ということへのイメージが湧かなかったり、カタいと感じたりする人もいるかもしれません。けれど、歴史って、実は、可能性にあふれています。新たな発見で皆さんが思っていた「歴史」が変わることもあるし、自分自身が「歴史」をつくることもできるのです。その意味で、歴史研究は、真っ白なキャンパスに地図をつくっていくことに似ていると私は思っています。
 また、歴史は、現在につながるもので、かつ、未来を展望するものです。「なぜ今こうなっているの?」「今後どうやっていけばいいの?」という根源的な問いを解くカギが歴史研究にはあります。たとえるならば、時間をかけて根本からじわじわと効いてくる漢方薬です。

歴史研究の魅力って?

 ところで、皆さんは、推理小説を読まれますか。推理小説に出てくる探偵は、さまざまな証拠を集めて、犯人を捜していきますよね。また、捜査の段階での物的な証拠や人々の動きといったひとつひとつの事項(点)が伏線(線)となって、最後には、犯行に至る経緯(物語)が浮かび上がります。
 私にとっての歴史研究は、これと似ています。最初、白紙の状態から、たくさんの資料(書かれたものだけでなく、建物や史跡、録音データや写真なども含みます)や関係者への聞き取りを通して、証拠集め(宝探し)をします。たくさん集まってくると、それらの証拠がだんだん独立した「点」ではなく「線」として結びついてきます。つまり、因果関係や前後関係など、それぞれの事項の関係性がみえてくるのです。そして、それらの線を結びつけていくと、次第に、面となり物語が浮かび上がります。歴史は、英語でhistoryとかくように、storyなので、この物語を紡ぐ作業が歴史研究の大きな魅力で楽しさだと思っています。
 ひとつひとつの証拠(点)を集め、点と点をつなげて線があらわれ、面となり、物語が立ちあらわれる過程は、謎をといていく探偵のようで、いつも、ワクワクします。

血圧検診

大阪大学医学部の学生による血圧検診のようす(愛染園学生セツルメント1959)[i] )

大学生が社会を変える?

 具体的なお話をします。私は、学生セツルメントというものの歴史を研究しています。こまかな説明は省きますが、学生セツルメントでは、全国の大学生が主体となって、さまざまな地域で、“必要だけどないもの”をつくりだしていました。たとえば、戦後まもなくのこと。「子どもを預けて働きに出たいけれど預かってくれるところがない」という声があれば保育所をつくり、「病院に通いたいがお金がない」という地域では低額で診療できる診療所をつくりました。園長も、診療所の運営も、大学生が担っていたのです。そして、一地域にとどまらず、必要だけどないものを、国として整備していくよう社会に対して訴える運動的な側面ももっていました。
 当時、学生セツルメントで実践(活動)や運動をしていた大学生は、「自分たちが社会を変えるんだ」という意気込みと信念をもっていました。
そうしたエネルギーはどこからきたのでしょうか。どうやって、地域の人の声をきいて、いっしょに進めてきたのでしょうか。なぜ、保育所や診療所をつくることができたのでしょうか。なぜ、それらを継続することができたのでしょうか(診療所は、今もかたちを変えて残っているところがあります)。当時の大学生はどのような学びを得て、今は何をしているのでしょうか。
 こうした問いに対して、自分でストーリーを紡いでいくのが歴史研究なのです。

愛染園学生セツルメント

愛染園学生セツルメントの子ども会のようす(愛染園学生セツルメント1959)

実践現場での学び

 さて、ここまで、私の研究もからめながら歴史研究の話をしてきました。最後に、私の担当科目について、ご紹介します。
 人間福祉学部社会福祉学科では、社会福祉士の受験資格を取得できます。社会福祉士を目指す学生が、社会福祉の実践現場で学ぶ科目が、「ソーシャルワーク実習」です。この科目では、事前学習を経て、約1か月間、さまざまな社会福祉にかかわる実践現場2か所での実習を行い、専門職として求められる知識や技術を学びます。
現場での学びを経て、何倍にも成長した学生に会うことがいつも楽しみです。
 みなさんとともに学びあい、高め合っていきたいと願っています。

倉庫に眠っていた資料

大阪府立大学(現・大阪公立大学)のセツルメントの倉庫に眠っていた資料(2010年撮影)

参考資料
i) 愛染園学生セツルメント(1959)「愛染園時代のアルバム」(岡本周佳・山田正行(2023)『学生セツルメントと大阪府立大学(2) 』大阪公立大学研究推進機構協創研究センター大学史編纂研究所、内の資料)


※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。

セツルメント診療所

東京大学の亀有セツルメントにルーツをもち現在も続いているセツルメント診療所(東京都足立区、2017年撮影)