Vol.09
悲しみに向き合うための
「グリーフケア」
坂口 幸弘教授
人間科学科
先日、ある夫婦が別々の病気で同じ日に天国に旅立ったというニュースがありました(読売新聞, 2022年11月20日朝刊)。夫が先に亡くなり、妻が約2時間後に亡くなったそうです。事故や災害などで夫婦が同時に亡くなることはあり得ますが、たいていの場合、仲の良い夫婦といえども、いつかは一方が先立ち、一方が後に残されることになります。 私が関わった「ホスピス財団」の2018年の調査で、ご夫婦に対して、自分とパートナーのどちらが先に逝きたいかを尋ねたところ、男性では約8割が「妻より先に」と回答したのに対し、女性では「夫より先に」と「夫より後に」が半々でした。自分が先に死にたい理由としては、「先に失う悲しみに耐えられない」や「自分が死ぬときにいて欲しい」が多い一方で、自分が後に死にたい理由としては、「最期を看取ってあげたい」や「パートナーの生活が心配」が多くみられました。
いつ、どのような形で大切な人との別れに直面するかは分かりませんが、死別は決して他人ごとではありません。2020年の国勢調査の結果によると、75歳以上の女性のうち、夫が健在の方は38%に過ぎず、54%はすでに夫の死を経験しています。死別による悲嘆反応の種類や程度はきわめて個人差が大きく、ときに心身に深刻な悪影響が及ぶ可能性もあります。
死別の悲しみへの向き合い方は人それぞれです。下図は、お子さんを亡くした父親が自分自身をボールにたとえた絵です。左端は独身だった頃のボールの大きさで、結婚し、2人の子どもが生まれて少しずつ膨らんだが、子どもの1人が亡くなり、心に大きな傷を負い、自分の半分をもぎ取られたように感じたといいます。数年後、心の傷の炎症は治まったものの、もぎ取られた傷口は、ふさがることなく、そのままでした。ただ、体が半分もぎ取られたままでは生きていけないので、仕事に打ち込んだり、誰かの役に立ったりなど、いろんな方法で本体のほうを大きくする努力をされたそうです。そうして器を大きくすれば、傷口の比率は小さいものとなり、生きやすくなったとご本人は話されています。
私は20数年前から、病院や保健所、葬儀社、市民団体などと連携して、死別による深い悲しみ(グリーフ)を抱えた人たちへの支援、いわゆる「グリーフケア」に取り組んでいます。主な活動として、同じような体験をした者同士が集まり、それぞれの体験や気持ちを語り、分かち合うことを通して、悲しみに向き合うヒントを得ることのできる場を提供しています。また、2021年4月には、「関西学院大学/悲嘆と死別の研究センター」を設立しました。学内外において、グリーフケアに関わるさまざまな立場の人がともに学び、ともに考え、そしてともに研究できる機会を作っていきたいと考えています。 私のゼミでは昨年度、ご遺族の想いを描いた動画を作成しました。この動画は、フォークシンガー・木下徹さんが作詞・作曲された「パパとママはね」という歌をもとに、学生とともにストーリーを考えて映像化したものです。こうした動画を通じて、ご遺族の想いを広く知ってもらうとともに、ご遺族が悲しみに向き合う一助になればと願っています。以下の動画欄からアクセスできますので、ぜひ一度ご覧ください。
参考文献
坂口幸弘「死別の悲しみに向き合う─グリーフケアとは何か」(講談社現代新書、2012年)
坂口幸弘「喪失学-「ロス後」をどう生きるか?」(光文社新書、2019年)
※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。