十人十福

Vol.16

「なぜbe going toが未来の意味を持つのか
~言語における文法化~」

茨木 正志郎准教授

#文法化#理論言語学

中学校の英語の授業で、未来を表す表現として”be going to”を習ったと思います。例えば、次の英文は「大学へ行くだろう」という未来のことについて述べています。

(1)Bill is going to go to college after all.
(ビルは結局のところ大学へ行くだろう)

このbe going toがなぜ未来の意味をもつのか、不思議に思ったことはないでしょうか。また、(1)の文には、be going toで使われるgoとは別に、本動詞としてgoが使われています。この2つのgoは同じなのか、それとも違うのか、そしてどう関係しているのか疑問に思ったことはないでしょうか。こうした疑問は、英語の歴史を辿ることで明らかになることがあります。以下では、be going toの発達過程を簡単にみてみましょう。

昔の英語には、未来を表すbe going toという表現は存在せず、goは「行く」という移動の意味で使われていました。移動を表すgoから、未来を表すbe going toが発達したと言われています。be going toが生まれたきっかけは、次の(2)のように、移動を表す動詞goの進行形とbe動詞、そして目的節が重なった構文にあると言われています。

(2)She is

(2)の文は、She is going in order to marry Bill(彼女はビルと結婚するために行く)と同じ解釈を持ちます(あるいは、She is leaving/traveling to marry Bill(彼女はビルと結婚するために出ていく/旅立つ)などに近い解釈を持ちます)。つまり、be goingは文字通り「行っている」という移動の意味で使われ、その後ろに目的を表す副詞的用法の不定詞節to marry Billが続いていると考えられるのです。

次の(3)は、(2)の構文からbe going toの発達を4段階に分けて示したものです。

(3)
a. She is going [to marry Bill].(=(2))
(彼女はビルと結婚するために行く)

b. She [is going to] marry Bill.
(彼女はビルと結婚するつもりだ)

c. She [is going to] like Bill.
(彼女はビルを好きになるだろう)

d. She [is gonna] marry/like Bill.
(彼女はビルと結婚するつもりだ/好きになるだろう)

第1段階の(3a)では、移動を表す動詞の進行形と、目的を表す節が組み合わさっています。(2)でも述べたとおり、ここでの本動詞は移動のgoであり、もう1つの動詞marryは不定詞節内にあります。第2段階の(3b)になると、is going toが1つのまとまりとして未来を表す助動詞として解釈されるようになり、それに伴い、本動詞はmarryであると認識されるようになります。新しくis going toという語のまとまりができることで、(3a)での不定詞節がなくなっていることに注意してください。このように語のまとまり具合の認識が変化することを、私の研究分野においては再分析と呼んでいます。
さらに(3c)の第3段階になると、ここでの再分析がより明確になってきます。つまり(3b)では、marryやvisitのような行為を表す動詞しか現れませんでしたが、(3c)になると、行為動詞に加えて、likeのような状態動詞も現れるようになります。(3c)の文を、動詞goと目的節to like Billから構成されるとみなして「彼女はビルを好きになるために行く」のように解釈することは出来ません。したがって、(3c)のような表現が可能になったということは、再分析が起こりbe going toが未来を表す表現として確立してきたことを意味しています。第4段階の(3d)では、goingとtoが縮約され音韻的にも形式的にも語と語とのつながりが強くなり、be going toが助動詞としての地位をより確かなものにしていることを表しています。

ここまで、英語の歴史においてbe going toが未来を表すようになったのは、本来は動詞であったgoが再分析によって助動詞に変化したためであるということを見てきました。このように、動詞や名詞、形容詞などの内容語が、次第に文法的な性質を帯びるようになり助動詞や冠詞、接続詞などのような機能語に変化することを文法化と呼びます。

私は、人間福祉学部の英語講読、英語表現などの授業を担当しながら、言語に観察される文法化と呼ばれる現象に対して、特に構造的な変化に着目した研究を行っています。上で見た助動詞be going toの発達も文法化の一例です。特に英語はその1500年の歴史の中で相当な変化を受けてきた言語で、様々な興味深い文法化の事例が観察されます。このような事例に対して、コーパスを使ってデータを収集し、言語理論に基づいた説明を試みています。このような研究が言語の特徴や特質を明らかにし、言語学習にも役立つことを願っています。


参考文献
Hopper, Paul J. and Elizabeth Closs Traugott (2003) Grammaticalization, Cambridge University Press, Cambridge.


※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。