十人十福

Vol.01

大学で培った学びを心に留め、
障害のある人たちが
社会で輝く後押しをする。

奥田 明さん

社会福祉法人西宮市社会福祉協議会
青葉園事業課 地域活動センターふれぼの

2017年卒業社会福祉学科

社会福祉学科在学中は、障害者福祉について研究。卒業後はグループホーム2社の勤務を経て、西宮市の生活介護事業所に就職。常に相手の立場を第一に考え、コミュニケーションを大切にすることをモットーに、日々障害を持つ方をサポートしている。

#仕事#福祉

活動を通してお互いを知り、関係性を育んでいく。

私が働いているのは、重い障害のある方々が日中に活動する「ふれぼの」という施設で、まさに「ザ・現場」です。「ふれぼの」では、活動を創りあげていく主体であるという意味を込めて、通所者の方を「本人」と呼んでいます。個性豊かな本人さんたちと、施設館内を華やかにする装飾活動、地域研究を行う「まち研」、ブログ更新などの活動を共に行っており、毎日楽しく仕事をしています。最近の活動でいうと、かつては職員とだけでなく地域の方と共に活動する機会も多くありましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により交流が少なくなってしまう事態に。そこで感染症の収束への願いを込め、地域の方々と共同で「アマビエちゃん」というオリジナルキャラクターを主人公にした絵本を作ることにしました。脚本を考える人、絵を描く人、色を塗る人などの役割分担をしつつ、約2年間かけて制作しました。当初どことなくぎこちなかった本人さんたちと地域の方々との関係が、共同作業を繰り返すことでどんどん自然になっていく様子が印象的でした。お互いの立場は関係なく、みんなで一つのことを成し遂げる達成感を味わうことができた、素晴らしい経験になりました。

自分と向き合うことが変化のきっかけになる。

他に印象に残っているのは、私が担当している50代女性の本人さんの心の変化です。彼女は将来的に親元を離れたいと考えており、自立を目指している人や実際に経験している人が集う「ひとり部屋」という活動に参加していました。障害のある方が一人で暮らすには、介護者との相性や、日常生活における判断、自己管理など多くの課題があります。しかし、当時の彼女は自分の置かれた状況をよく理解できていないまま「一人でできる」と言っていました。私たち職員が大変さを伝えても、実感が伴わずあまり響いていなかったのですが、一人暮らしの経験者から真剣なアドバイスを受けるうちに、自らがこうしたいという自我や思いが強く出てくるようになりました。自分で課題と向き合わなければならないという責任感が芽生えていったのです。そこから彼女は、高齢の親御さんに心配をかけまいと、自立に向けて準備を進めています。この出来事を通じて、人は関わりを通して、また自分自身と向き合うことにより変化していくのだと身をもって実感しました。だからこそ、本人さんたちと接するときは、自分の中で関わり方をパターン化せずに、コミュニケーションをとりながら、今の状態を見つめなおすよう心がけています。

大学で学んだ倫理観が、今の自分を支えている。

私には障害のある家族がいて、障害者の家族として福祉に携わるべきだと思ったことが、この道に進んだきっかけです。福祉について深く学べる大学を探していたところ、人間福祉学部が目に留まりました。最も印象的だったのは、ゼミを担当してくださった松岡先生による「障害とは何か」を考える授業。障害には医学や社会といった、さまざまな観点からの見方があると知ったときは、自分が障害をいかにせまい視野でとらえていたかに気づかされました。物事を一面からではなく多面的に見ようとする姿勢が身に付いたと思います。また、学部の4年間ではソーシャルワーカーとしてもつべき倫理観に触れる機会が何度もありました。これは、今でも仕事や人との関わりで迷いが生まれたときに顧みる私の指針となっています。実際の福祉の現場では、衣食住が担保され、安全に暮らせるなら問題ないという考え方もありますが、社会の一員としてどういう人生を歩んでいきたいかを一緒に考えることが大事だと思っています。今後も本人さんたちの心に寄り添いながら人生をサポートしていきたいです。

この先も、障害のある人たちが社会で生活していくために。

障害のある方を支援し続けていくためには、その人たちの置かれた状況や福祉従事者の働く環境を改善していく必要があると感じています。私の勤める青葉園では、通所者が年々高齢化している現状があります。いずれは彼らの親世代がいなくなってしまい、自力で生きていかなければならないでしょう。ただ、一人で生きるのが困難な方がいることも現実です。グループホームなどに入所するという手もありますが、様々な理由で入居時より多くのケアが必要になった場合、対応ができないという理由で退去を余儀なくさせられてしまうこともあります。だからこそ、障害のある方が力を合わせて一緒に生活できるような拠点が必要だと考えます。医療的ケアが必要になってもずっと安心して生活できるグループホームのような環境を作れたらと思っています。また、こうした人をしっかりと支えるため、私たちソーシャルワーカーの働き方も見直したいと考えています。仕事柄、時間に追われるなど体力的にも大変さを感じることもありますが、その分喜びも大きい仕事です。職員の心身を守り、いきいきと働ける職場づくりに取り組みたいです。

大学生活で出会う新たな価値観は、すべて人生の糧になる。

社会福祉学科は、福祉職を目指すうえで最適な環境です。先生や職員の方々の手厚いサポートのもと、今まで知らなかった世界や価値観に触れることができます。また周囲にはソーシャルワーカーを志す学生が多いため、仲間と助け合いながら学びを深めることができる点も魅力的です。
これから大学生活を送られる皆さんには、学業以外の取り組みにも全力で挑戦してみることをおすすめします。さまざまな経験の引き出しがあれば、自分と周囲の人たちの人生の幅を広げられるようになるからです。私が大学時代に戻れるなら、旅行に行っていろんな世界を見て回りたいと思っています。アルバイトやサークル活動、趣味など何でもいいので、ぜひ真剣に取り組んでみてください。豊かな経験はどんな形であれ仕事に活きると思います。