十人十福

Vol.03

「経営学」ではなく「人間福祉」の
観点から社会起業を学ぶ。
拘る人が報われる社会を作りたい。

林 楓馬さん

社会起業学科 3年

名城大学附属高等学校を卒業後、人間福祉の観点から社会起業を学ぶため人間福祉学部 社会起業学科に進学。理論と実践を体現するため、学内におけるゼミやフィールドスタディ、学外の多彩な事業や活動に参加。現在は3年次に行ったバングラデシュでの研究調査について論文を執筆中。

#社会起業#課外活動#留学

ボランティアで感じた「無意識の優劣関係」が、社会起業を学ぶきっかけに。

高校時代、語学留学でフィリピンを訪れました。プログラムの一環で、ボランティア活動に参加。当初は現地の方々と対等な関係を築き、手を取り合って…という形を想像していましたが、現実は日本人生徒が孤児院の子どもたちに配膳して、日本の文化を教えるという一方的なものでした。無意識に潜む「恵まれない人たちと、裕福な人たち」という優劣関係がはっきりと見え、私は配膳作業に参加することができませんでした。この体験をきっかけに、「本当にあるべき国際貢献の姿とは何か」を真剣に考えるようになりました。その過程で興味を持ったのが「社会起業」という概念。経営学としてではなく、人間福祉学としての社会起業を深く学びたいと考え、人間福祉学部への進学を決意しました。

単なる知識で終わらせない。自分事で捉える学問が面白い。

この学部には多様な観点から福祉を学べる環境があります。一見すると国際貢献とは関係のない障害者福祉や高齢者福祉などにも、共通点や繋がりがあることに気付くことができました。また多岐にわたる福祉に触れることで学問を自分事に落とし込む力にもつながりました。物事を構造化して捉え、自分の頭の中の引き出しとつなげる鍛錬は、大学の学びだけでなく、日常生活の多くの場面で役立っていると感じます。社会起業学科には、自ら企業を経営しながら教壇に立っていらっしゃる先生方もいるため、理論と実践の両側面から学べることも魅力です。
これまでに受けた講義で特に印象に残っているのは「ソーシャルマーケティング」。内容は、マーケティングの手法や根本的な考え方を学ぶものですが、自分事として知識を取り込み、実際のさまざまな活動に生かすことができました。「学問とは何か」を考えるきっかけとなったのもこの授業で、単なる知識で終わらせずに、それらをいつどのように活かすのか、自分なりのビジョンを描きながら学ぶことの面白さを実感しました。

理論と現実の乖離を感じながらも、学問の意義を再認識。

学問の魅力を感じる一方で、理論と現実にはギャップがあることも知りました。授業で障害者福祉を学んで興味を持ったことがきっかけで、就労支援のお手伝いをしていた時のこと。福祉の精神は理解していても、「お金を稼ぐ」というビジネス的観点も同時に求められる現実や、障害は社会構造がつくるもの(例えば、車椅子で階段に登れないのは、階段という構造の問題)という観点を持っていても、それだけでは語り切れない事実があることなど、理論だけでは通用しない現状を体感しました。
それと同時に、実務に学問を持ち込む意義も再認識。私は、何か新しい分野に飛び込む時はまず大学図書館に行き、その分野に関する学術本を読むことにしています。学問を綺麗事だという人もいますが、私は自分が進む道を後押ししてくれるもの、確信を持たせてくれるものと思っています。これまで人類が積み重ねてきた知見を得た上で、自論を持って戦いたいという思いがあります。
とにかく何事も実践してみるタイプ。学外活動では、恩師が代表を務める企業の新規事業として絵本『ゆめがないぼく』の出版に携わりました。この絵本は、「夢はあった方が良い」という固定観念へ一石を投じる内容となっています。そのほか、社会の新たな価値創造を目指す23歳以下が集う「U-23サミット」の運営メンバーとしても活動。多分野での事業立ち上げ等に邁進してきました。

挑戦心が養われたバングラデシュでの研究調査。

3年次の夏には、「人間福祉海外フィールドスタディ」でバングラデシュに赴き、マイクロファイナンスの研究調査を行いました。マイクロファイナンスとは、グラミン銀行に代表される、貧しい方々にお金を貸して彼らの自立をサポートし貧困の削減を達成するという金融の仕組みです。私は、銀行から融資を受けた女性たちの生活や心情がどのように変化していったかについて、実際に家を訪問しながらインタビュー調査を行いました。私が訪れた地域は村社会で、若くしてお見合い結婚で家庭に入り、家の外の世界を知らない女性も少なくありません。しかし、マイクロファイナンスの融資がきっかけで、関連する会合に参加するようになり交友関係が増えたといった、予想外の副産物が生まれていることが分かりました。慣れない異文化の中で苦労もありましたが、教授や多くの方々に支えられながら無事活動を終えることができました。1か月間、バングラデシュの人たちと寝食を共にしたことも思い出です。
現在は、当時の研究調査の成果を論文に落とし込み、学会発表に挑戦するため着々と執筆を進めています。

自分なりの「納得感」を大事にして生きていきたい。

元々ビジネスの世界に強い関心があり、入学時からさまざまな挑戦を重ねてきました。今関心があるのは、ボランティアではなくビジネスとしてソーシャルグッドな活動を展開すること。容易にビジネスが展開でき、物が飽和している現代において、「拘っている人が報われる社会」にしたいという野望があります。人の背景や物事の裏側を知ったうえで、商品や生き方を選択することは幸せにつながると感じるのです。少しエゴかもしれませんが、私なりの幸福感を社会に広げていきたいと考えています。具体案として、人に密着取材したドキュメンタリー動画の制作と、それを活用したビジネスモデルの構築を検討しています。
「納得感」こそが人生において最も大切であると思っています。自分は何がしたいのか、なぜ今これをするのか、自問自答を重ねていく中で生きる意味が見えるのだと思います。在学中にたくさんの世界を見て、挑戦し、失敗してきたことは間違いなく自分の血肉になっています。受験生の皆さんも、自分が進む道に「納得感」を持てるかどうかを大切にして欲しいと思います。