Vol.11
マーケティングで
社会は変えられる
森藤 ちひろ教授
社会起業学科
マーケティングとは何か?
皆さんは「マーケティング」に対してどのようなイメージを持っていますか。例えば、人々を魅了する広告、商品を売るための仕組みなどを思い浮かべたかもしれません。マーケティングはビジネスの世界で耳にすることが多いと思いますが、私たちの生活にも深く関わっています。
『はじめてのマーケティング[新版]』1 )には、あるマーケターの「マーケティングはプレゼントだよ!」というつぶやきが紹介されています。皆さんが誰かにプレゼントをする時、相手の持ち物や好み、関心事などを思い返し、何をどのように贈ろうかと様々な角度から検討するのではないでしょうか。贈る側は相手に喜んでもらいたくて、情報を収集し、相手を分析します。そして、渡した時に「こんなものが欲しかった!」と言ってもらえたら、とても嬉しくなります。これがマーケティングのエッセンスであり、マーケティングとは「顧客のニーズを与えられたものと考え、ただそれに合わせるのではなく、彼らに積極的に働きかけることで、新しい需要を生み出していくこと」1)なのです。
マーケティングの対象は、社会全体にとって価値のあるもの全てに広がっています。モノやサービスだけでなく、人々の価値観やアイデア、行動なども含まれます。私は、社会課題の解決にこそマーケティングは不可欠であり、マーケティングは社会を変える可能性を持っていると考えています。私が担当する「ソーシャルマーケティング論」という授業では、マーケティングを用いて社会を変えていくことについて学びます。
ソーシャルマーケティングを知っていますか?
ソーシャルマーケティングとは「優先度の高い人々に対して、個人と社会にとって有益な行動変容を促すためにマーケティングの原理と手法を用いるプロセス」 2)のことです。商業的なマーケティングでは、価値のある商品を世に送り出し、消費者がその商品を買いたくなるように促します。ソーシャルマーケティングでは、人々が新たな行動を取り入れることで、自分自身や社会がどのように良くなるのかを理解し、自ら行動を変えていくことを支援します。ソーシャルマーケティングは、健康増進、公衆衛生、環境問題、交通安全、治安維持などに幅広く活用されています。
ここで重要となるのが、その人の行動の背景にある価値観の理解です。私の専門でもある「消費者行動」では、消費者の価値観やライフスタイル、好みと行動の関係を解明します。人は新しい価値観を受け入れた時、動機づけられ自ら行動するようになります。そのため、ソーシャルマーケティングの実践においても、対象者の世界観を正確に把握し、行動変容の障壁が何なのかを理解することがとても重要になります。
マーケティングの可能性
私は大学教員になる前に薬剤師として勤めていた時期があります。患者が積極的に治療に取り組む状況とそうでない状況がなぜ起こるのか、それに対して医療者は何ができるのかという問いが私の研究の原点です。現在は、マーケティング、消費者行動を専門とし、提供側と消費者が共創していくようなサービスを中心に、顧客満足、顧客参加の研究をしています。
また、私のゼミではマーケティングと消費者行動の理論を「人々の暮らしや人生を豊かにする道具」として捉え、それらを用いて「消費者を深く知り、社会をより良くするモノ・サービスを創造する」ための実践的研究を行っています。行政職員や地域の方々と一緒に地域活性化の活動を行ったり、企業の方々と社会問題を解決する商品開発に挑戦したりしています。授業やゼミ活動を通して、多様なメンバーで作り上げるモノ・コトの醍醐味を伝えていきたいと考えています。
マーケティングに興味をもっていただいた方は、『はじめてのマーケティング[新版]』1)や『マーケティングの力―最重要概念・理論枠組み集―』(近刊) 3)を覗いてみてください。きっとマーケティングの印象が変わることでしょう。
1) 久保田進彦・澁谷覚・須永努(2022)『はじめてのマーケティング[新版]』,有斐閣
2) ナンシーR.リー・フィリップコトラー(2021)『ソーシャルマーケティング:行動変容の科学とアート』,メディカル・サイエンス・インターナショナル
3)恩藏直人・坂下玄哲編(2023)『マーケティングの力―最重要概念・理論枠組み集―』,有斐閣
※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。